顧客満足度調査の結果は、各項目ごとに平均値を出したり、棒グラフやレーダーチャートにすることが多い。
もし、あなたが顧客満足度調査の結果を見て、「ある項目が10点満点で平均3点なので、ここを改善する」といった判断の下し方をしている場合は注意して欲しい。なぜならば、ただ点数が低いからと改善しても、全体の満足度にどの程度貢献できるのか未知数だからだ。本質的な事は、その項目の改善ではなく、全体的な顧客満足度を上げることにある。
つまり、顧客満足度調査の結果から導かれる最も重要な情報は、全体的な顧客満足度を上げるためには、どの項目から改善していくのが最も効率が良いかを把握でき、優先順位を付けることができることにある。ヒト、モノ、カネといった経営資源が限られたなかにおいて、これは非常に大切なことだ。
以上から、顧客満足度調査は満足度と重要度の両面から探る必要があることがお分かりいただけたと思う。
さて、ここからは100件のアンケートのダミーデータを用いて満足度と重要度という視点から改善項目を視覚的に把握しやすくする方法について説明する。
アンケートの内容
アンケートの質問項目は以下の10種類とし、
- Q1:店舗の雰囲気
- Q2:店舗の清潔さ
- Q3:店舗のBGM
- Q4:店舗の温度
- Q5:接客の対応
- Q6:料理の味
- Q7:料理の量
- Q8:料理の値段
- Q9:料理の提供スピード
- Q10:料理の種類
その回答方法は以下の5段階とし、それぞれに点数を割り振った。
- 5:満足
- 4:やや満足
- 3:どちらともいえない
- 2:やや不満足
- 1:不満足
注意していただきたいのは、実際にアンケートを取るときには、このような質問項目は採用してはいけない。なぜならば、顧客によって質問の受け取り方が異なる可能性が高いためである。例えば、接客の対応で満足と回答した顧客は迅速な対応だから満足としたのかもしれないし、不満足とした顧客は無愛想だったからかもしない。
このように、顧客の受け取り方によって異なる質問はいくら分析しても意味のないものになってしまう。ここでは、説明の簡略化のための質問事項であることに注意していただきたい。
アンケートで適切な回答を得るための質問については、「適切な回答を得るためのアンケートの作り方」で解説しているので参考にして欲しい。
アンケートの集計
まずはアンケートを以下のような表を作成しよう。これは、質問に対する回答を点数化し、顧客ごとの総合点を各質問の平均とした。もし、顧客アンケートに総合満足度の質問をしたならば、その数値を用いた方が良い。
顧客 | Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | Q5 | Q6 | Q7 | Q8 | Q9 | Q10 | 総合 |
N001 | 5 | 5 | 3 | 5 | 3 | 5 | 2 | 1 | 4 | 1 | 3.4 |
N002 | 4 | 4 | 4 | 4 | 1 | 5 | 1 | 1 | 3 | 1 | 2.8 |
N003 | 5 | 5 | 1 | 4 | 3 | 2 | 1 | 3 | 1 | 1 | 2.6 |
N004 | 5 | 1 | 3 | 4 | 4 | 2 | 3 | 1 | 5 | 1 | 2.9 |
N005 | 4 | 5 | 5 | 3 | 2 | 4 | 4 | 1 | 1 | 4 | 3.3 |
… |
満足度と重要度
次に、各質問ごとに、「満足」または「やや満足」と回答した顧客の割合を求め、これを顧客の満足度とする。
満足度=(「満足」または「やや満足」と回答した人数)/全体の人数
ここで、重要度という指標を作る。重要度とは、顧客が 各質問のどの項目を重要視しているのかを数値化したものである。つまり、総合点数はどの質問に影響されているかが分かればよいので、各質問と総合点数の相関係数を採用する。
具体的に、Q1の場合の重要度を求めてみる。相関係数は以下の式により計算できるので、Q1の点数と総合点数の2組の数値からなるデータ列{(xi,yi)}={(Q1の点数,総合点数)}、nを100、x̄をQ1の平均 、ȳを総合点数の平均とすればよい。
当然ながら手計算では大変なので、エクセルで相関係数を求める場合はCORREL関数を用いて求めればよい。
これをエクセルで求める場合は、平均値はAVERAGE関数、標準偏差はSTDEV関数を用いればよい。下の図を参考にして欲しい。
これらをまとめたものが以下の表である。
質問 | 満足度 | 重要度 | 満足度偏差値 | 重要度偏差値 |
Q1:店舗の雰囲気 | 0.90 | 0.2413 | 72.12 | 46.40 |
Q2:店舗の清潔さ | 0.64 | 0.3804 | 60.93 | 58.07 |
Q3:店舗のBGM | 0.26 | 0.3982 | 44.57 | 59.57 |
Q4:店舗の温度 | 0.24 | 0.1350 | 43.71 | 37.48 |
Q5:接客の対応 | 0.20 | 0.0702 | 41.99 | 32.04 |
Q6:料理の味 | 0.53 | 0.4353 | 56.19 | 62.68 |
Q7:料理の量 | 0.28 | 0.2789 | 45.43 | 49.55 |
Q8:料理の値段 | 0.35 | 0.3764 | 48.45 | 57.74 |
Q9:料理の提供スピード | 0.27 | 0.2218 | 45.00 | 44.77 |
Q10:料理の種類 | 0.19 | 0.3039 | 41.56 | 51.65 |
グラフ化し改善事項を把握する
この表を視覚的に分かりやすくするために、満足度偏差値と重要度偏差値をグラフにすると以下のようになる。このグラフから、重要度が高く満足度が低い質問となる以下が優先的に改善を要することが分かる。
- 店舗のBGM
- 料理の種類
- 料理の値段
まとめ
ここまで、顧客満足度調査のアンケートを用いて、満足度と重要度という視点から優先的に改善を要する事項の把握の仕方についてみてきた。
さらなる分析として、これを性別や年代別に行ってみるのも重要だ。おそらく性別や年代別でまた違った結果になるであろう。その際、改善の優先順位は、全体の顧客に占める割合が高いところかつ満足度が低く重要度が高いところとすればよい。例えば、男性30代の顧客数が全体の20%、女性30代の顧客数が全体の30%であった場合は、女性30代で分析した結果を優先させればよい。もちろん、共通したものがあれば、それを行ったほうが全体的に見るとより効果的だ。
また、顧客満足度と売上の関係も見ておくほうが良い。もし、顧客ごとの売上が分かるようであれば、例えば、過去一年間の顧客ごとの売上とアンケートの総合点との間に関係性がないかを回帰分析などにより調べてみる。そうすれば、より具体的に総合点が1点上がるごとに売上がどれほど上昇するのか、はっきりと数値で見ることができ、改善の意味がより明確となる。
実際に分析するときに参考にしていただければ幸いである。