収益性分析とは、主に損益起算書上の数値から収益獲得力や投資効率性を測定する分析である。企業が継続的発展を遂げるためには利益確保が欠かせないが、企業経営は好調のときもあれば不調のときもあるため、様々な観点から収益または利益の状況を把握する必要がある。

ここでは、収益性分析の代表的な指標をいくつか紹介する。
これらの代表的な指標を活用するに当たっては、業種によってかなり異なるため同業他社や自社との比較で用いるのが良い。

売上高売上総利益率(あら利率)

売上高売上総利益率とは、売上高と売上総利益の比率で、一般的にあら利率(荒利率または粗利率とも書きます)と呼ばれている指標である。

売上高売上総利益率(あら利率)=売上総利益÷売上高×100(%)

売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いた値である。ここから人件費や水道光熱費などの販売費及び一般管理費を支払うことになるので、売上総利益は、商売の大元の利益ということになる非常に大切な数字である。

薄利多売の場合は売上高に対して売上原価が多くかかるため売上高売上総利益率が低くなり、高付加価値の商品を提供している場合は売上高に対して売上原価が少なくなるため売上高売上総利益率が高くなる。

売上総利益を改善する方法は、売上高を増やすか売上原価を減らすしかない。売上高よりも売上原価の方が経営判断または決定によって改善しやすい。例えば、商品仕入の場合は大量に商品を仕入れて割引率を高めにとれれば、商品単価が下がるため売上原価削減できる。この場合は需給予測、在庫管理、キャッシュ・フロー管理が要である。製品製造の場合は生産効率を高め製品一つあたりの製造原価を抑えることが王道だが、電力会社との契約の見直しなど製造環境の改善も視野に入れておく。

売上高営業利益率

売上高営業利益率とは、売上高と営業利益の比率で、企業の営業力をみる指標である。

売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100(%)

営業利益とは、売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた値である。販売費及び一般管理費は人件費や水道光熱費など事業を行ううえで必須の経費であることから、営業利益は本業で稼ぐ力を見る大切な数字である。

営業利益を改善する方法は、売上総利益を増やすか販売費及び一般管理費を減らすかしかない。売上総利益よりも販売費及び一般管理費の方が経営判断または決定によって即効性の有る改善がしやすい。例えば、得意先との飲食の回数を無理のない範囲で減らせば交際費を抑えられる。販売費及び一般管理費を一つ一つ丁寧に見ていき、事業に影響の少ない、または貢献度が低い所から経費削減していけばよい。こうして浮いた分を事業にとってより注力していくところに再配分するのだ。

売上高経常利益率

売上高経常利益率とは、売上高と経常利益の比率で、企業の総合力をみる指標である。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100(%)

経常利益とは、営業利益から営業外収益を足し営業外費用を差し引いた値である。営業外収益は受取利息や雑収入など、営業外費用は支払利息や雑損失などがある。経常利益は本業とそれ以外のものを含めた総合的な力を見る大切な数字である。

経常利益を改善する方法は、営業利益を改善する方法と同様である。ほとんどの場合、営業外収益及び営業外費用は営業利益よりも重要度や貢献度が低いため、まずは営業利益の改善を優先したほうが良い。

売上高当期純利益率

売上高当期純利益率とは、売上高と当期純利益の比率で、企業の内部留保力をみる指標である。

売上高当期純利益率=当期純利益÷売上高×100(%)

当期純利益とは、経常利益から特別利益を足し特別損失及び法人税等などを差し引いた値である。特別利益は固定資産売却益など、特別損失は固定資産売却損や役員退職金などがある。当期純利益は最終的な利益の額を表すとともに時期に向けての留保金額を表す大切な数字である。

当期純利益を改善する方法は、営業利益を改善する方法と同様である。特別利益や特別損失は簡単に言えばまれにしか起こらないものであるため、まずは営業利益の改善を優先したほうが良い。ただし、役員退職金の支給で大きく赤字を出したくないと考えるならば、保険を活用し前倒して経費化する方法がある。その際は営業利益が減少するが法人税等の負担は軽減されるので、全体としての計画をしっかり立てておくことをお勧めする。

売上高人件費率

売上高人件費率とは、売上高と人件費の比率で、人件費の負担割合をみる指標である。

売上高人件費率=人件費÷売上高×100(%)

人件費とは、役員報酬、従業員の給与・賞与、法定福利費、福利厚生費などである。退職金規程がある場合は、退職金の引当金繰入も考慮したほうが良い。退職金の引当金繰入とは簡単に言えば退職金の支払い時に全額経費とするのではなく、事前に少しずつ経費化しておくことである。

売上高人件費率を改善する方法は、人件費を減らすか売上高を増やすしかない。売上高を増やすことが大前提だが、売上高人件費率が同業他社と比較して著しく悪い場合は、短期的に改善する方法として人件費のうち役員報酬と賞与を見直すことだ。

使用総資本経常利益率

使用総資本経常利益率とは、総資産と経常利益の比率で、投下資本の投資効率をみる指標である。

使用総資本経常利益率=経常利益÷総資産(当期末と前期末の平均値)×100(%)

使用総資本経常利益率が高い場合は、投下資本が効率的に使われいることを意味し、使用総資本経常利益率が低い場合は、投下資本が効率的に使われていないことを意味する。

同業他社と比較して使用総資本経常利益率が低い場合は、一度総資産を見直すことをお勧めする。特に固定資産を見直して不要な固定資産がないか調べたり、固定資産の収益貢献度を調べたりしてみると良い。

粗付加価値額

粗付加価値額とは、企業の生産性を金額によって表したものである。
粗付加価値額=人件費+賃借料+租税公課+特許権使用料+減価償却費+営業利益

売上高付加価値率

売上高付加価値率とは、売上高と粗付加価値額の比率で、商品やサービスなどの加工度をみる指標である。

売上高付加価値率=粗付加価値額÷売上高×100(%)

売上高付加価値率が高い場合は、自社で加工する割合が高いことを意味し、売上高付加価値率が低い場合は自社で加工する割合が低いことを意味する。

労働生産性

労働生産性とは、従業員数と粗付加価値額の比率である。

労働生産性=粗付加価値額÷従業員数の2期平均(円)

労働生産性は一概に高い低いで考えてはいけない。例えば、粗付加価値額のうちほとんどを人件費で占めていた場合は労働生産性は一人当たり人件費と同じ意味になるからである。労働生産性を活用する場合は、粗付加価値額の構成要素をしっかりと吟味する必要がある。

労働分配率

労働分配率とは、人件費と粗付加価値額の比率である。

労働分配率=人件費÷粗付加価値額×100(%)

労働分配率が高い場合は、粗付加価値額のうち人件費の割合が高いことを意味し、労働分配率が低い場合は粗付加価値額のうち人件費の割合が低いことを意味する。

同業他社と比較して一人当たり人件費が同じで労働分配率が高い場合は、粗付加価値額のうち人件費以外の項目を見直すと良い。減価償却費が低い場合は同業他社と比較して償却が進んでいる可能性が高いので、老朽化が進むと同時にその固定資産から生み出される収益性の減少も要因となっている可能性がある。

一人当たり売上高

一人当たり売上高とは、売上高と従業員数の比率である。

一人当たり売上高=売上高÷従業員数の2期平均(円)

一人当たり売上高を改善する方法は、売上高を増やすか従業員数を減らすしかない。従業員数を減らすのは大変難しい問題であるため、売上高を増やす方法を考えなければならない。

一人当たり当期純利益

一人当たり当期純利益とは、当期純利益と従業員数の比率である。

一人当たり当期純利益=当期純利益÷従業員数の2期平均(円)

一人当たり当期純利益を改善する方法は、当期純利益と増やすか従業員数を減らすしかない。従業員数を減らすのは大変難しい問題であるため、当期純利益を増やす方法を考えなければならない。

一人当たり人件費

一人当たり人件費とは、人件費と従業員数の比率である。

一人当たり人件費=人件費÷従業員数の2期平均(円)

同業他社と比較して一人当たり人件費が高い場合であっても、必ずしも改善しなければならないということではない。なぜならば、一人当たり人件費が高いがそれ以上に一人当たり売上高や一人当たり当期純利益が高い場合は他社と比較してより有能な従業員を雇っていることになるからである。一人当たり人件費を活用する場合は、一人当たり売上高や一人当たり純利益など他の数値にも目を配らなければならない。

これだけは抑えておきたい収益性分析の基本