目の前の仕事で忙しいといって、ただがむしゃらに働いたところで利益を出し続けなければ生き残っていけない。どの方向を向いてがむしゃらに働くかを把握しておかなければならない。
財務データの見方が分からないといって、蔑ろにしておけばいつまでたっても改善されない。分からない箇所を把握しておかなければならない。
顧問税理士に任せてあるといっても、顧問税理士は当事者ではない。あなたに経営の決定権があり、そして、あなたは全責任を負う立場の人だ。
経営者であるあなた自身が財務データを活用しないと意味がないのである。それでは財務データを経営に役立つツールとして活用する方法をご紹介する。
財務データの種類と得意分野とは
財務データの主な種類を以下に挙げる。
- 月次試算表
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュ・フロー計算書
- 経営計画書
- 経営指標
- あなたの頭の中
「あなたの頭の中」というのは意外に思うかもしれない。しかし、あなたの頭の中にもきっと財務データがあるはずである。是非、あなたの頭の中の財務データも使って欲しい。
次に、財務データの得意分野について説明しよう。財務データは主に以下の2つの得意分野がある。
- 現状の把握: 今期と前期の財務データの比較、同業他社との比較など複数の財務データを比較することにより財務の現状を多角的に把握すること。
注意していただきたいのは、把握できるのはあくまで財務のことだけである。 - 数値の連動による予測:仮定をおくことによって、ある数値の変動が別の数値にどのような影響を与えるのかを予測すること。
例えば、あら利率や経費を固定とした場合、売上高が○%増えた場合、利益が×%増えると予測されるなど。
ここでは、現状の把握を中心に見ていくことにする。
現状の把握をする
それでは、財務データを現状の把握に使ってみよう。使う上で、基本的なことは比較するということだ。では、なぜ比較が重要なのか説明しよう。
- 自社で比較する
売上高が伸びていたとしても、それ以上に売上原価が伸びていれば利益は残らない。そうすると、経費削減をしなければならないかもしれない。どこで無理なく経費削減できるかはあなたの事業内容次第である。これはあなたの事業の中でしか分からないことだ。 - 他社と比較する
売上高が伸びていたとしても、必ずしも順調に事業規模が拡大しているとは限らない。なぜなら、あなたの売上高が5%伸びていたとしても、同業他社は10%伸びているかもしれないからだ。これはあなたの財務データを眺めているだけでは決して見えてこない。他社と比較して初めて見えてくることだ。 - あなたの頭の中
あなたの頭の中にある数値が正しいとは限らない。もし、間違った数値を元に経営判断を行っていては余計なリスクをとる可能性が高い。あなたの頭の中の数値をアップデートしなければならない。
比較するための財務データを用意する
比較するためには、まず財務データを入手しなければならない。自社の財務データは簡単に手に入るだろう。他社の財務データは以下のサイトを参考にして欲しい。
- 財務省:法人企業統計
- 中小企業庁:中小企業実態基本調査
- 日本政策金融公庫:中小企業の経営等に関する調査結果
それぞれのサイトを開き、統計表一覧をクリックすれば、各年別の財務データを入手することができる。
他社の財務データはあなたの同業となるような財務データを選ぼう。もちろん、同業とはいえ、昨今事業経営は細分化され専門性が増しているが、目安としては十分に活用できる。
比較のための準備
財務データを比較する際に気をつけるべきことは、なるべく割合を用いるということだ。割合を用いるというのは、例えば、前期と比較して売上高が何%伸びているとか、売上高に占める人件費が何%かといった具合だ。
同業他社との比較が良い例となるが、あなたの売上高が○円、同業他社の売上高が×円といった数値だけを見ても、「社歴や従業員数などの経営環境が違うから当たり前だ」となり、それ以上の事柄が見えにくい。
これをあなたの売上高伸び率は○%、同業他社の売上高伸び率は×%となった場合はどうだろうか。あなたの売上高伸び率のほうが良かった場合は、あなたの方が同業他社よりもうまく経営資源を活用し、売上高を増やしたとみることができる。
したがって、財務データを比較する際には、数値を割合に変換してから用いたほうが良いのである。
まずは、構成割合を算出する。例えば、貸借対照表ならば、資産の数値を元として割合を求め、損益計算書ならば売上高の数値を元として割合を求めておこう。
次に、比較する2つの比率割合を算出する。例えば、前期損益計算書と今期損益計算書を用意したら、前期からの売上高伸び率を求めておこう。
比較のはじめ方
ここからは実際に財務データを比較し読み解くことになる。では、財務データのどこから比較すればいいのかという疑問が浮かぶだろう。
答えは簡単だ。あなたが気になっているところからはじめればいい。
例えば、売上高が気になっている場合は、前期と比較してどれだけ伸びているのかを見ると、次に同業他社はどうだろうかとなり、今度は同業他社の伸び率を見る。そうすると、今度はあら利率が気になり・・・、というように次々と連鎖していけばよいのである。あなたが気になるところから自社または他社の財務データを使って次々と比較してみよう。
比較することで見えてくる現状の把握
あなたの思いつくままに財務データを比較していくと、いろいろなことが分かってくる。
- 現金預金が前期より増えている場合は、事業が順調に伸びているのかもしれないし、借り入れしたため一時的に増えているように見えるだけかもしれない。
- 現金預金が前期より減っている場合は、事業が順調に伸びていないのかもしれないし、設備投資を行ったからなのかもしれない。
- 売上高伸び率が同業他社よりも良い場合は、あなたの売上高を構成する商品またはサービスが強みだからなのかもしれない。
- 売上高伸び率が同業他社よりも悪い場合は、あなたの売上高を構成する商品またはサービスが弱みだからなのかもしれない。
ここまでが、現状の認識だ。ここから一歩進んで、比較対象の数値を差異の原因を探ろう。特に、比較対象の数値が大幅に乖離している数値に着目して原因を探って欲しい。なぜならば、この数値の乖離はあなたの事業の強みかもしれないし、弱みかもしれない。原因までしっかりと押さえて現状の把握となる。
また、可能であれば、第三者に意見を求めたほうがより効果的だ。あなたが気付かなかった重要な点を指摘してくれる可能性があるからだ。
様々な観点から比較し分析することができるが、現状をすべて把握しようとすることはやめたほうがいい。現状の把握は目的ではなく、次にどのような行動を起こすべきかを見つけるための手段だからだ。
まとめ
ここまで、財務データを現状の把握として活用する方法を見てきた。
あなた自身が誰よりも経営について深く考え、悩んでいることと思う。現状の把握はその悩み解決への第一歩である。何事もそうだが、第一歩を踏み出すことが何よりも重要なことだ。そして、一足飛びではなく、一歩一歩着実に地に足をつけ歩んでいくことが生存確率を上げる確かな方法だ。
では、第二歩目はというと、「目標の設定と具体的な対策の策定」である。これは、財務データ以外のデータも使う必要があるので、また別の機会とさせていただきたい。
現状を正しく把握し、決して多くないであろう経営資源を有効に活用しなければ生き残っていけない。財務データを経営の強力なサポートツールとして使い活用して欲しい。